★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ . * ・* MOON LIGHT EXPRESS Electrofile [FILE: 000032] ☆━━━━……‥‥ ムーンライトエクスプレス−エレクトロファイル " *  . * 《総発行部数 4,308部(前号発行時点)》 ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ ●このメールマガジンの登録変更/解除はこちらから → http://www.mlexp.com/mm/regist.htm ◆INDEX◆ ▼特選図書 ○心の影2 ▼ノベルズ ○知恵の実を食べたイヴ ▼コスモスコープ ○クォークの星、見つかる!? ○宇宙のお歳は? ▼お知らせ ○あなたもSETIやってみませんか? ○メーリングリスト参加者募集中! ○投稿作品募集 ▼コラム ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ CHOISE BOOKS ━……‥‥ 特選図書 ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ ◆ 心の影2 意識をめぐる未知の科学を探る 著者:ロジャー・ペンローズ(訳=林一) 出版:みすず書房 価格:3,900円+税 ISBN:4-622-04127-8 ▼ 目次 古典物理学には心のための場所はあるのか/量子世界の構造/量子論と実在/量子 論と脳/含意は? ▼ 内容紹介 昨年(邦訳版が)発売されたペンローズの「心の影」の続編である。現在の科学、 特にその根底を支える物理学は「心」という難問を解き明かせるか、というテーマ で様々な解説が綴られる。特に、量子論による心へのアプローチは、ペンローズ氏 独特の手法。「皇帝の新しい心」及び「心の影」第1巻などの一連の「心」シリーズ を読んだ方は必読!【紹介:MLEXP.】 ▼ 関連書籍 本書は一般向けに書かれた本ではありますが、若干高度な知識が必要な部分もあり ます。そんな方に、以下の書籍を、解説本としてお勧めしておきます。 『ペンローズの量子脳理論』 著者:ロジャー・ペンローズ(訳/解説=竹内薫、茂木健一郎) 出版:徳間書店 価格:2,200円+税 ISBN:4-19-860703-6 この本を読まれた後で、「皇帝の新しい心」などから始めて「心の影」へ進むと、 比較的入りやすいかもしれません。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ★ このコーナーに本を紹介してください! あなたのお薦め本を紹介してください。内容は、宇宙、科学一般に関する専門書、 解説書、読み物などです。詳しくはこちら → http://mlexp.com/mm/books.htm 紹介先はこちら electrofile@mlexp.com ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NOVELS ━……‥‥ ノベルズ ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ ● 知恵の実を食べたイヴ 第一話         【 作:おも 】 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ……ここは、どこだろう?…… ……いまは、いつだろう?…… ……わたしは、だれ?…… ……だれか、おしえて?…… ………………… ………… …… ……だれも、いない…… ……いない、のか?…… ……………… ……ならば…… ……ならば、つくろう…… わたしを知るものを! わたしを見るものを! わたしを感じるものを! そして…… 永い、永い時が流れた…… ……! ……ここは、どこだ? ああ、ここは俺の船の中。「ギャラクシーウィンド」の船長室のベッドの上だ。 ……今、いつだ? 今はSC845年、人類最初の他恒星系への移民船を出してから845年目に当たる年だ。 ……俺は、誰だ? 俺の名は、ライ。俺のじいさんにつけられちまったけったいな名前だが、じいさん から由来を聞いてからは結構気に入っている。何でも地球の古い言葉で、濃密な大 気を持った惑星でよく見られる放電現象のことを指してるらしい。惑星上ではやた らうるさいんだが、宇宙から見るとこの上なく美しい眺めになる。 ………。 ようやく頭がはっきりしてきた。誰かと話してる夢を見てたようだ。何かを尋ねら れてた。だがあとの内容は憶えていない。もう何度も見ていることは憶えてるんだ が、どうも要領をえないまま目覚めてる。 ………まあ、いい。いつものことだ。 シャワーでも浴びるか。 さっぱりした俺は、コクピットへと入っていった。 「おはよう、キャプテン」 「おう、ご苦労さん」 相棒に、挨拶を返す。 いつもニコニコと機嫌のいい俺の10年来の相棒は、未だ10代半ばの少女だった。き れいな金髪にブラウンの瞳。うん、どこに連れてっても恥ずかしくない、立派な美 少女だ。 「リリ、お前、何時からそこにいる? いい加減、休んだらどうだ」 「でも、宇宙(そら)を見てると全然飽きないんだよ」 「こんな星しか見えない退屈な景色のどこがいいんだよ?」 「全部」 「う〜、解ったから取りあえず寝ろ。いざって時、寝不足の相棒に命を預ける気は ないぞ」 「は〜い。じゃ、キャプテン、お休み」 リリは体を包んでいたシートから身軽に飛び出すと、俺の頬に軽くキスしてから消 えていった。 俺はさっきまでリリのいたシートにはまりこむと、一通り船のチェックをしてから 考え事を始めた。どうやらさっきまで見ていた夢が影響しているらしい。 ………リリをひろってからそろそろ10年になるかな……… 俺とリリの出会いはかなり不思議なものだったから今でもよく思い出す。 あれはSC836年のことだった。 そのころの俺は今も続けているこの稼業の新米の一人として、ある船に乗り組んで いた。稼業といっても大して格好の良いものではなく、宇宙航路の掃除屋のような ものだった。人類が太陽の重力圏を抜け出し、星ぼしの世界に飛び出してから800 年以上が経ったとはいっても、宇宙のホンの一部を貸してもらっているに過ぎない 脆弱な存在であるのに変わりはなかった。 宇宙を旅する人類にとって危険な存在は幾らでもあったが、その中でも光速の20% 以上のスピードで移動する宇宙船の、航路上に浮遊する小天体は最も身近で深刻な 敵であった。 まあ、実際は各船に付いてる高性能なレーダーと、自動航法装置がなんとかしてく れるんだが、短時間に複数の障害物があると危険なこともある。まあ、そこで俺達 の出番となるわけだ。 俺達、掃除屋は宇宙連合(たかだか10やそこらの恒星系で宇宙とは片腹痛いが)航 路部の依頼を受けて、宇宙船が頻繁に通る空間の巡回をしながら、発見した障害物 を排除して歩くのが仕事だ。当然、普通の船よりも高性能なレーダーと小天体を素 粒子レベルまで分解する為の対消滅弾まで持ってるから、ちゃんとお上のお墨付き をもらわないと違法営業でとっ捕まることになる。 「キャプテン、小規模な群れを見つけた。出番だよ」 そのころ、この仕事を始めたばかりの若造だった俺は、自室に引っ込んでいた船長 を呼び出した。 船長は、何も知らないまま、ただ宇宙で仕事がしたいと言う俺を拾ってくれた恩人 だ。 「おう、新米。今行く」 「了解」 ……いい加減、新米はよしてくれよ…… 俺はくさった。 が、隣の部屋で待ってたかのようにたちまち姿を現した船長に、そんな反発は消え 去って尊敬の念さえ覚えながら報告を始めた。 「目標は石質の小天体群、そんなに大きな物は含まれていないようです」 「よし、詳細を俺のモニターへ」 「はい……。OK!送りました」 「うん………。たいしたことはなさそうだな。  ん。この広がり続けてる反応は何だ?」 「天体同士の衝突で砕けた破片じゃないですか?」 船長はセンサーのモードを切り替えている様だったが、不意に鋭い声を発した。 「おい!この反応は金属反応だぞ。それも人の手が加わってる。隕鉄じゃない」 「ええっ、それじゃ、どっかの船が群れに突っ込んだってことですか!」 「たぶんな!おい、急いで、かけつけろ。群れは連絡して他のやつらに任そう」 「はい」 「キャプテン、破片のベクトルがバラバラですがどれに向かいますか?」 「う……ん。今、センサーを最大にしてるんだが、生き残りがありえるくらい大き な破片はほとんど無いようだ。取りあえずこれに向かってくれ」 ディスプレイの光点の一つにカーソルが固定される。 「了解!」 俺は内心ビビッていたが、船長の落ち着いた声に救われて操船を続けた。 「……こいつが、一番でかい破片なんだが……。やっぱりひどいな」 「普通は衝突のショックだけでも駄目でしょう?」 「まあな。だが、そう割り切れるものでもないし、な」 「救命カプセルに入る時間があったなら、可能性があるかもしれないですね」 「カプセルか。信号は発信されてないんだろ?」 俺は全帯域受信状態の通信機を見ながら首を振った。 「出てません」 「救命カプセルは規格統一されてたな?資料はないか?」 「あります。この船の分でよければ」 「それでいい。カプセルの質量から人が乗った時の質量までを考えて、重力波セン サーにかけてみろ」 「あ、はい。……今、スキャンしています」 センサーが崩れた船体の一部の周りを漂う破片の中から、目的の質量を持った物体 を探している。と、ディスプレイにスキャンの結果が表示された。 「4個、確認できました。ディスプレイに写します」 「急げ」 最初の2個は単なる船体の一部だった。次の一個は……。 「確かに、カプセルですが……」 「ああ、こうつぶれてたんではどうしようもないな。次を写せ」 「最後の物ですが……。!!これもカプセルです」 「見た目は無事だが、質量はどうだ?」 「無人の質量、プラス20〜30キロです」 「おい、当たりかも知れんぞ。回収しよう」 ……そして、俺達は「リリ」を発見した。 遭難した船は外板に残されている識別信号で、とある旅客宇宙船であることは解っ た。が、なぜ、小天体群との遭遇を回避できなかったのかの疑問は残った。そして、 リリという名前以外なにも憶えていない少女については旅客船の搭乗記録にも残っ ていなかった。 あれから3年程で俺も独立して、あの船から自分の船へと移ったのだが、リリは身 寄りがまったく見つからなかった。結局、彼女は自分のことを何も思い出さなかっ たため、本人の希望もあって俺達が引き取った。俺が独立するときは、父親のよう に慕っていた船長に付いていくかと思っていたが、俺に付いて来た。 何でかは謎だ。別に俺は手を出しちゃいないしな。 「あの娘が普通の生い立ちでないだろう事は俺にもわかる。だが、生い立ちはどう であれ、あの娘自身はまともな女の子だ。俺なんかとふらふらしてて良いとも思え んが……」 俺の船で、仕事を手伝うことは本人が言い出したことだ。 理由は、「そらにいるのが好きだから」だ、そうだ。 そして彼女の、仕事の相棒としての腕は立派なものだった。もちろん腕力は無いん だが、頭が良い。無重量での宇宙空間の仕事は、腕力よりも要領の良さの方が役に 立つものだ。そして、こればっかりは生まれつきの部分が大きいんだが、勘が良い。 これは操船の際に非常に役に立つ。正直、今では俺よりもうまいだろう。 「ま、俺より料理が上手くなったら嫁さんにしてやらんこともないかな」 一言つぶやいて、気分を紛らわせると、考えるのを止めた。 「ギャラクシーウィンド」の点検を済ませ、連合への定時連絡をした俺はまたぼん やりしていた。 「最近、ここらの宙域も平和なもんだな」 太陽系からも近く、人類の居住惑星の多いここらの宙域は、目立った障害物は取り 除かれて俺達の出番も少なくなっていた。いまだ開拓の進む辺境の方では、まだま だ仕事がどっさりとあるので、食いっぱぐれる心配は無い。 この船に乗り始めた頃の俺は独立したての新米だったし、十歳にも満たないリリが 居たこともあって辺境には手を出さないでいたが、そろそろ良いころかもしれない。 あとでリリにも相談してみるか。 「え、辺境へ行くの?」 たっぷり8時間は眠って、ぼけた顔をしているリリを捕まえると、俺は相談を持ち 掛けた。 「ああ、まあお前がいいと言えば、だがな」 「もちろん言うわよ。大体この船の持ち主はライなんだから、わたしのことは気に しなくていいんだよ」 いつの間にか俺の呼び名がキャプテンから、ライになってる。ま、コクピットに入 って真面目に仕事してる時くらいしかキャプテンとは呼ばれんのだがな。 「気にするさ。辺境は荒くれどもがわんさといるし、仕事も今より危険でハードに なる。気楽に行けるとこじゃあない」 「ライがいれば平気だって。荒くれ者ぐらい蹴散らしてくれるでしょ」 「俺はそんなに強くないって」 「じゃ、わたしが蹴散らしてあげるわよ」 細い腕で力こぶを作ってみせる。なんとも頼りない限りだが、本人は至って真面目 なようだ。 「キャプテン・ライはわたしが守ってあげるわ」 ニコニコしているリリに俺はサジを投げた。 「わかったよ。辺境では頼りにしてるぜ」 「じゃ、決まりね!仕事も増えて、収入も増える。楽しみだなあ」 「そんなに楽じゃないと思うけどな」 「楽じゃなくてもいいよ。ガッポリ稼いでギャラクシーウィンドをパワーアップさ せよう!」 「なんでパワーアップしなきゃいけないんだ?今でも使えるだろ」 「わたし、もっともっと宇宙をたくさん見たいの。辺境より遠いところも行ってみ ようよ」 「おい、辺境より外って言ったら、ほとんど生きて帰れねえぞ」 「え、どうして?」 俺は頭を抱えた。 「いいか、今、人類が移住している星系は10個ある。これは、ここ20年ほど変わっ てない。宇宙船の性能も航続距離も大幅に上がっているのに、より遠い星系へのア クセスができないのはなぜだ?」 「え、ん〜〜と。あ、そうか、<ミラー・ゲート> が無いんだ」 「そういうこと。ゲートが無かったら超光速航行のできない俺達は太陽系から出る のさえ大仕事なんだぜ」 「ゲートっていくつあるの?」 「16個!お前、何年宇宙で仕事してるんだ?これくらい知っとけよ」 「ごめんなさい」 リリは起き抜けでボサボサになっているショートの金髪を俺に向かって項垂れさせ た。しおらしいリリに弱い俺は一瞬で機嫌を直して説明を始めた。 後にSC(スペース・センチュリー)元年とされる年、一隻の恒星間移民船が地球を 後にした。目的地はアルファ・ケンタウリ星系。太陽系からもっとも近い、この隣 の恒星系にはすでに無人の探査船が到達していた。約4.3光年の道程は、光速を越 えることのできないこの宇宙の存在にとっては十分に長かったが、人体を無視して 加速することのできた無人探査船は、100年とかからず目的地の様子を地球に送る ことに成功した。 そこには惑星があり、かつて人類が金星や火星を手なずけた技術を使えば移住可能 であることも判った。 「ただ、そこに人を送り込むには更に300年ほど時間が必要だったんだ」 「人が耐えられる程度の加速での通常航行だったからだね?」 「それと、その長時間、自給自足するだけの人数を集め、コロニーのような巨大な 宇宙船を作り、惑星一つが破産するくらいの費用や物資が必要だったからな」 こうして、最初の植民星系が生まれた。ただ、植民地といっても通信するのでさえ 片道4年かかる所を、太陽系政府が支配できるものではなかった。人々はそれぞれ の土地でほぼ無関係に生活を始めた。 <ミラー・ゲート> が見つかったのは、そんな頃のことだった。 太陽系の外縁部、オルトの雲と呼ばれる彗星の巣がある所。いびつな雪玉のような、 彗星の材料がごろごろとしている空間。ここを調査中の科学者が空間にぽっかりと 浮かんだ鏡を発見した。直径50kmの正確な円を描き、厚さを持たない謎の鏡はあり とあらゆる物を反射した。電磁波、粒子、ニュートリノ、もっと大きな物体、など。 宇宙船が体当たりしても壊れることもなくいったん鏡の中に消えてから、こちら向 きに出てきた。体当たりする時と同じ速度で、向きだけ反射して。 ただ、一度だけ事故が起きた。いったん鏡に消えることから、センサー付きの長い ケーブルを送り込んだ時だった。消えていったケーブルの先端が、しばらくしてか らこちら側に出てきた為、こっちに残っていたケーブルの途中と融合して対消滅を 起こして大爆発したのだった。だが、どうやら衝撃も反射したらしく、鏡はびくと もしなかったらしい。 「まあ、それだけなら、ただの<ミラー> なんだが、その後、かしこい学者さん がいてな。でっけえフィールドで船を覆って鏡の中に入りこむ方法を発見したんだ そうだ」 「で、鏡の出口はまた鏡なんだよね」 「ああ、最初の出口はシリウス星系の外縁にあったらしい」 「うん、前に地球からここに来るのに使ったよね」 「おう、憶えてたか? いくら高速な船を使っても、シリウスまで通常航行では百 年はかかっちまうけど、あの時は4ヶ月ほどだっただろ。要するに人間は、長いこ とありえないと言われていた光速を超える空間の移動を実現することができたんだ。 そっから先は解るだろ?」 「うん。他にもたくさん……ええと、16個も鏡が見つかったんでお互い何十光年も 離れた恒星系に人間が広がることができたんだよね?」 「ま、そーいうこった。そのうち別の鏡が見つかって、  別の星系への道でも開けりゃ面白くなるんだがな」 「うんうん、じゃ、鏡を探そうよ。見つけて自分のものにしちゃって、通行料でも とれば大金持ちだよ」 「おお、いいなあ。って、そんなに簡単に見つかるわけないだろうが!」 「わかんないよ。わたし、勘が良いからね。今でも探せば一つ、二つくらいはすぐ 見つけられそうな気がするよ」 ここまで言って、ちょっと複雑そうな顔をした。 「なんか、人間離れしてるけどね」 「なにが言いたいんだ?」 「やっぱりね、自分が何者なのか、わからないのは不安だよ。ライは、別に何者で もない、普通の人間だって言ってくれるけど、たぶんわたしはどこか人とは違う。 そう感じる」 モニターに写る宇宙にうつろに視線をさまよわせているリリを見てると、なんだか 俺の胸の方が痛くなってきた。 「リリ。お前がそう感じるのは仕方のないことさ。人は誰しも過去の自分の上に乗 っかって生きてるんだからな。そして、親や家族といった周りの人達の中で自分の 居場所を見つける。お前にはその最初の部分がポッカリと抜け落ちてるんだし……。 ただな、お前の記憶が始まった10年前からこっちは、船長や俺が家族だったろ。 まあ、お前は確かに人並みはずれて勘がいいし、人と違う部分について不安を感じ ることもあるさ。だからって、俺や船長がお前をおかしな存在として扱ったことが あるか?」 「そんな、そんなこと一度だって無かったよ」 「じゃ、いらん心配はするな。たとえお前がどうだろうと俺にとって大切な家族で あることに変わりはないんだぜ。ここにゃ、いないが船長だってきっとそうだろう しな」 「う……ん。そうだね。ありがと、ライ」 「気にすんな、ってのに」 「うん!」 「なあ、リリ」 「ん、なに、ライ」 「お前が、もっと広い宇宙を見たいってのは、やっぱり自分に対する不安の裏返し じゃないのか?」 「そう……。そうかもしれない。ただ、何かがわたしの中で引っかかってるの。 それが何かは分からないんだけど……」 「ふうん……。ひょっとして昔の記憶に関係した何かなのかな?」 「わかんない。あれ以前のことを思い出そうとしても、記憶が見つからないって言 うより、自分が居たような気がしない、って感じだし……」 「そっか。まあ、これから宇宙を広く旅していけば、なんか手がかりの一つくらい 見つかるかもしれんしな」 「そうだね。でも、かえって見つからない方がいいかもしれないよ」 「どうして?」 「だって、そのせいでライと一緒に居られなくなるかもしれないし……」 「え?たとえば、お前がどっかのお姫様か何かってことか?」 俺はニヤッとしてみせたが、リリは赤い顔でそっぽを向いた。 「もう、いつまでもライと一緒に居たいってことよ」 「あ……」 リリがあっちを向いてくれて良かった。俺も顔が赤くなってるような気がする。 「ま、まあ、この船はお前の家なんだし、居たいだけいればいいさ」 「船とライと、ね」 「お、おう」 俺はさっさと自室に引き上げることにした。 第一話 終わり ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ★ このコーナーに関するお問い合わせ このコーナーや掲載作品に関するお問い合わせは次のアドレスまでどうぞ。 お問い合わせ先はこちら electrofile@mlexp.com 感想等も同じアドレスで受け付けています。また、このコーナーへの投稿方法など については、この後の「お知らせ」にて。 ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ COSMO SCOPE ━……‥‥ コスモスコープ ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ ◆ クォークの星、見つかる!? 《2002/04/11》 クォークでできている可能性がある星が観測されたと、米航空宇宙局(NASA)は10 日に発表した。クォークとは、様々な物質を構成する素粒子の一種である。これま で考えられていた理論では、太陽の8倍以上の質量を持つ恒星が超新星爆発を起こし 重力崩壊すると「中性子星」という中性子で構成される星になり、太陽の30倍以上 の恒星については、ブラックホールになるだろうとされていた。 今回見つかったのは「みなみのかんむり座」にある「RXJ1856.5-3754」という星。 この星は地球から400光年程度離れた場所にあり、その表面温度が約70万度と極度に 高いにも関わらずその直径が11.2kmほどしかないことが分かったという。星の質量 は、地球からの距離と光度からその温度が推定され、その温度から計算される。そ の質量と直径から星の密度が計算できるが、この星の密度は、これまで考えられて いた中性子星よりも大きい。また、「カシオペア座」にある「3C58」という天体も、 同様にクォークでできた星である可能性があるとしている。 X線観測衛星チャンドラによる「RXJ1856.5-3754」の映像 http://chandra.harvard.edu/photo/2002/0211/ 【 クォーク星が瞬くと... 】 「クォーク」というのは、そんな名前のカード会社があるが、それではなく、素粒 子の種類の名前だ。素粒子物理学では、物質は全て「クォーク」と「レプトン」と いう種類の素粒子からできている、ということになっている。レプトンについては、 電子やニュートリノといった素粒子がレプトンの仲間であり、これが単独で存在す ることもあるのだが、クォークは、通常は陽子や中性子などの粒子を構成して存在 しており、日常的にクォーク自体が単独で存在することはない。 ところが、今回見つかった星は、そのクォークで直接構成されている可能性がある ということだ。クォークが他の物質を構成せず単独でいられるには、極度の高密度 状態である必要があり、その大きさは中性子星以上である(中性子星でも、直径10 km 程度で質量は太陽よりも大きいというとんでもない状態)。 従来、恒星が終焉を迎えると、その燃えかすとして白色矮星が残るか、中性子星に なるか、或いはブラックホールになるか、の大きく3通りが考えられていた。今回の 発見により、さらに星の運命が1つ増える可能性がある。 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homeは学術的にも意味のあるプロジェクトです。ぜひとも登録してみてください。 よろしければ当チームにも参加してみてください。  SETI@homeの参加方法についてはこちらから  http://www.mlexp.com/mm/seti.htm SETI@homeお問い合わせ先 seti@mlexp.com (mojio) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ◆ メーリングリスト参加者募集中! 当サイトでは、メーリングリスト(ML)を開設しています。MLとは電子メール を使用してインターネット上に擬似的な電子会議室を実現するものです。宇宙のこ とや科学、哲学全般について気軽に語り合ってみませんか? 参加方法など、詳細はこちら  http://www.mlexp.com/ml/index.htm ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ◆ 投稿作品募集 ムーンライトエクスプレス−エレクトロファイルに掲載する小説、エッセイなどの 作品を募集しています。テーマは、宇宙、科学、哲学などに付随する内容。密かに 暖めているネタ、書き溜めて眠っている小説などありませんか?そのような作品を、 是非ここで発表しましょう。4000人を超える読者にあなたの作品をお届けすること ができます! 投稿先アドレスはこちら sf-post@mlexp.com 詳細はこちら  http://www.mlexp.com/theater/efilepost.htm ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ COLUMN ━……‥‥ コラム ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ 「悪に上下の隔てはない」某時代劇の有名なせりふですが、小さい頃この意味が良 く分かりませんでした。どうしても殺人のような重大犯罪と小銭をちょろまかすよ うな犯罪では隔てはあってしかるべき、と思っていました。父に聞いたところ、こ れは悪事を働く側の身分に隔てがないことだということ。その意味に納得、その発 想に納得できずにいました。 身分というものをどれだけ感じてきたかという時代背景か、時代劇がどれだけ好き かという嗜好の問題か。「そんなこと常識」といわれても、その常識がないとそれ がいかに希薄で、いかに根拠のない感覚的なものでしかないことを感じます。 日本人なら感覚的に分かるという太郎と次郎の詩というものがあります。それを聞 くと、この組み合わせの絶妙さはなるほどと思うより他ありません。6歳児くらい でもあるというこういった感覚はいつ頃形成されるものなのでしょうか?そしてこ の感覚がなくなってくる時代はいつか来るものなのでしょうか? ( 2002/ 4/18 mojio ) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ◆ 編者ひとこと −ついにクォーク星発見?BH理論はどう変わるのか(も) −百武裕司氏の功績を称えると共にご冥福をお祈りいたします(お) −星野阪神、このまま突っ走れ!(月) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 「ムーンライトエクスプレス−エレクトロファイル」に関する、ご意見、ご感想、 誤りのご指摘などは随時受け付けております。皆さんの声をお聞かせください。  宛先はこちら electrofile@mlexp.com ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ MOON LIGHT EXPRESS ━……‥‥  発 行 : ムーンライトエクスプレス  編 集 : ムーンライトエクスプレス編集室 WebURL : http://www.mlexp.com/ E-Mail : electrofile@mlexp.com ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥