★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ . * ・* MOON LIGHT EXPRESS Electrofile [FILE: 000034] ☆━━━━……‥‥ ムーンライトエクスプレス−エレクトロファイル " *  . * 《総発行部数 4,303部(前号発行時点)》 ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ ●このメールマガジンの登録変更/解除はこちらから → http://www.mlexp.com/mm/regist.htm ◆INDEX◆ ▼ピックアップ ○星の王子さまに会いに行きませんか ▼ノベルズ ○知恵の実を食べたイヴ ▼コスモスコープ ○太陽系に似た惑星系発見 ▼お知らせ ○あなたもSETIやってみませんか? ○メーリングリスト参加者募集中! ○投稿作品募集 ▼コラム ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ PICK UP ━……‥‥ ピックアップ ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ ■「星の王子さまに会いに行きませんか」キャンペーンのお知らせ 今年の年末に小惑星に接近して、その表面の鉱物などのサンプルを持ち帰ることな どを目的とする小惑星探査機「ミューゼスC」が打ち上げられます。 日本惑星協会では、この活動を応援することを目的に世界中の方から名前を送って もらい、これをミューゼスCに載せて目的の小惑星まで旅をする「ミリオン・キャ ンペーン:星の王子さまに会いに行きませんか」を企画しています。 せっかくの日本製の探査機に、日本発の企画なのですが、日本からの応募よりも海 外からの応募の方が倍以上に多いのだそうです。月以外のこういった星からのサン プルを持ち帰るのはこれが世界初、とても貴重な活動です。ぜひとも日本国内から も応援の声を上げるべく、このキャンペーンに参加してみませんか。 なお、締め切りは7月6日までとなっています。 日本惑星協会 http://www.planetary.or.jp/ 「星の王子さまに会いに行きませんか」ミリオンキャンペーン http://www.planetary.or.jp/muses-c/ ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NOVELS ━……‥‥ ノベルズ ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ ● 知恵の実を食べたイヴ 第三話         【 作:おも 】 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ……どこへ、いったのだ…… ……わたしを、しるものよ…… ……わたしを、あつめるものよ…… ……わたしを、きおくするものよ…… ……わたしは…… ……まっているのだ…… ……最近、夢の内容が変わってきたかな…… 俺は寝起きのシャワーを浴びながら考えていた。 ……この夢を見始めたのはいつだったっけか?…… 10年は前から見てると思う。ただ、内容を覚えてないために、最近の夢の変化の ようなことが以前にもあったかどうか、定かじゃない。 「どうにも、体が重くてかなわんな」 『レダ』の重力に慣れてない体に、俺はぼやいた。 普段、俺達が暮らしている船内での重力は基本的にゼロだ。ただ、生活の中でどう しても重力があった方が都合が良い場合があるために、必要に応じて地球重力の半 分を基準に重力を作る。 もっとも、重力波発生装置などという便利な物は、未だ発明されてはいないから、 船の加減速の際に生じるGを使っていて、燃料を節約したい時にはほとんど無重力 で過ごしている。 レダの重力は地球の8割ちかくある上に、四六時中あるわけだから、2〜3日はギ クシャクと情けない動きになりそうだ。ナマッた体だよな。 「よー、起きてたか」 「うん、昨日は荷物の搬入で忙しかったし、この重力でしょ。疲れてすぐに寝ちゃ ったからね」 「ま、俺も似たようなもんだ。やっぱ長いこと上にいると、こういうのが結構こた えるよな」 重力変化に対する問題は人類が宇宙に進出した時から重要な問題として捉えられて いたらしい。全身の筋力低下や、骨中のカルシウムの損失など、いくつもの問題が あったらしいが、今ではほぼ解消されている。ただ、体の感じる違和感のようなも のは多分に精神的な問題だから、慣れてしまうのが一番だ。あと、物が重く感じる のは、完全に物理的な問題だ。どうしようもないな。 「ねえ、ライ。今日は学者さんと会うんでしょ。あの時は会えなかったし、異星の 話を聞きたいんだ」 「ああ、リックにもそう伝えてある。さすがに人目のある所で出来る話じゃないん でな、リックの船で会うことにしたよ」 俺は手に持ったアルコール入りの飲み物の数々を見せた。 「じゃ、じゃあさ、その遺物ってのも見せてもらえるの?」 「そいつは判らんな。そこまで約束はしてない。お前が頼んでみな、あいつだって 女の子から頼まれた方がうれしいだろ」 「よ〜し、やってみる。楽しみだな〜」 「…………」 ……変なこと、しなきゃいいが…… 「なに、変な顔してるの?早く行こうよ」 「ああ、わかったよ。変な顔はお互い様だろ」 「そ、それはもう言わないでよ〜」 「はははは。じゃ、出かけるか」 「うん」 ポルックス星系第4惑星『レダ』は、地球よりやや小さい赤道半径5500kmほどの星 だ。改造前の昔の火星のように低温と乾燥の惑星だったが、温室効果の大きなフロ ンなどのガスを使って平均気温を80度ほど上げたため、ちょうど過ごしやすい気 温になっている。ただ、火星のように大量の水が氷として存在していればよかった のだが、そうではなかった為、乾燥した気候が植物の生育をはばんでいる。 大気中は二酸化炭素がほとんどで、酸素は限りなくゼロだった。俺達も簡単な生命 維持システムを持ち歩く必要があったが、短時間なら酸素パックを持って密閉され た服を着ればほとんど問題はなかったので、リックの船へはまったくの軽装だった。 「よくまあ、こんな船で降りてきたもんだ」 「これって、大気圏内を飛行すること考えてないんじゃないの?」 「ほとんどないみたいだな。まあ、あの学園コロニーから乗ってきたんだろうから なあ」 この前、宇宙でランデブーした時は別に感じなかったが、地上でこの空気抵抗だら けの繋げた立方体の群れを見ると凄い違和感だった。 「……やっぱり、変な感じがするよ」 「まあ、軌道上に補給施設がないんだから、しょうがないだろ」 「違うの。前にこの船に乗った時に感じたのが、今また感じるの」 「……そうか。なんだろうな」 「うん……。でもそれを知るためにも、行かなきゃ」 「何かあったら、かならず俺に言うんだぞ」 「ん。わかった」 「よ〜〜し、飲むぞ〜〜!!」 「ちょ、ちょっと、何かあったら俺に言えって言ってたの誰よ?」 「ちょっと、待って下さいよ。今、飲んじゃったら話が出来ないですよ」 なんだなんだ、何だってみんなして俺の邪魔をするんだ? 全員、顔を揃えりゃ、 まずは酒。常識だろ。 「お前ら、何いってやがる。酒飲まなきゃ話なんて出来ないだろうが。お前らも飲 め飲め!!」 「あ〜、もう駄目だよこれ。酔いつぶれたら顔に落書きしてやるから」 「出来るもんならやってみやがれ。俺の方が先に落書きしてやる」 「あ〜、駄目ですよお。子供にお酒飲ましちゃ」 「じゃ、お前が先に飲め!お前もつぶれたら落書きだぞ!」 「ひどいよ、わたし子供じゃないよ。わたしも飲むからね」 「わわわっ、そんなに注がないで下さいよ。私はそんなに強くないですよ」 「よお〜し、二人とも飲め!すべてはそこからだぜ」 「あ、これ美味しい〜。リックさん、そこのお酒もう一杯ちょうだい」 「しょうがないですねえ。リリちゃん、これだけですよ。あ、ライさん、もう注が ないで下さいよ」 「うめえなあ。やっぱり、下に降りたら酒だよな。二人とも、ガンガンいくぜ!!」 ガンガン!!! うおっ!! い、痛え! あ、頭が〜〜。 なんなんだ、この痛みはよ〜。 ………… ………… あ。 参った。俺としたことが。 つぶれちまってたなんて。 いったい、何本飲んだんだ? 駄目だ。全然憶えてねえや。後の二人にもガンガン飲ませてたのは憶えてるんだが。 「あ、そうだ、二人はどうなってんだ?」 俺は辺りを見回した。どう見ても3人分には多すぎる量の空き瓶や空のパックが散 乱している。 「こりゃひでえや、リリのやつもだいぶ飲んでた様な気がするしなあ」 結局、ソファーからずり落ちてうずくまってたリックを先に発見した。こりゃ、も うちょっと寝かしといてやるか。 床に転がってるリックはそのままにして、床に散乱したゴミを取りあえず部屋の隅 っこに移動する。と、後ろでドアの開く音と声が聞こえた。 「気持ち悪い〜、頭痛いよ〜〜」 「おお、お前も起きたか?………??………ぐっ、な、何だ、その顔は?」 「え、何? 何なの?? ………!!あっ、ライどうしたのその顔?」 「あ……そういや、ゆうべ落書きがどうとか言ってたような……」 「え、何のことなの〜?」 俺は一言、この船の制御コンピューターに命令した。 「こいつの顔をモニターに映せ」 一瞬後、ブラックアウトしていたモニターに映像が入った。 「ああああ〜〜っ!!なによこれ〜〜っ!!」 リリの絶叫が響き渡ったが、すぐ静かになった。見ると、頭を抱えてうずくまって いた。 「あ、頭が割れるう………」 「静かにしてるのが一番だぜ。くく、その落書きは落とさずにいろよ。見事に芸術 的な出来だからなあ」 人の顔を笑いながら、自分の顔も同じ運命をたどっていたことを、すっかり忘れて いる俺であった。 「ああ、やっと楽になってきましたよ。ゆうべはライさんとリリちゃんの落書き合 戦で、船が壊れるかと思いましたし」 「は、はは。そんなにひどかったか?」 「ええ。私もあなた方の落書き攻撃から逃れるので、精一杯でしたよ」 「え、わ、わたしも?」 リリのやつも憶えてないらしい。まあ、初めての酒だし、無理もないか。ただ、自 分が相当に大暴れしたことが判ってうろたえまくっている。 「ま、俺の顔に落書きしたのがリックだとは思えんからなあ」 「う、そ、そうかも」 「でも、あなた方を見てると飽きませんねえ。ずっと、宇宙で一人でしたから、久 しぶりに楽しむことが出来ましたよ」 ……よく、一人で2年も3年も研究だけに没頭できるよなあ。得体のしれん異星文 明のなんぞに…… ここまで考えて、俺達がここに来た理由を思い出した。 「あ、そうそう。リリ、リックに聞きたいことがあったんだろ?」 「そうだよ。昨夜ライがお酒を出さなかったら、お話聞けたのに」 「なんです、話って」 リリはリックが学者だってことで気難しい人物なのを恐れていたが、存外気さくな ので安心しているようだ。 「あの、この前ライが聞いたっていう、異星の文明のこと聞きたいんですけど、い いですか?」 「ああ、その話ですね。別に構いませんよ。まだ、資料の収集と整理が中心であま り研究は進んでいませんが」 「それでもいいです。たくさん知りたいから」 「それじゃあ」 今度は、前の時と違って時間がたっぷりある。前回よりも突っ込んだ詳しい話を聞 くことが出来た。 彼の見立てによると、異星人達の文明は地球人類の文明とはかなりの違いがあり、 当初の目的だった共通点を探して、二つの文明の接触を証明することは難しくなっ ているらしい。今、解っていることは、異星人の文明は地球の文明のように物質に とらわれたものではなく、精神的な活動をより重んじた文明であったことだ。これ は、ポルックス星系外縁の小惑星群の中で発見された数千万年以上も古いと思われ る遺跡からの発掘品をもとにリックが推測したことで、年代から考えても地球人類 に影響を与えたとは考えにくいと言うのが、彼の結論だった。 俺自身の感想を言わせてもらえば、結構ほっとした。もし、逆の結論が出て、どこ の誰やら解らんやつらが俺達の精神的なご先祖さまだ、なんて言われてもかなわん し、それに乗っかって何の努力もせずに好き勝手言い出すやつらが出てくるだろう 事は火を見るより明らかだったからな。 「で、精神活動って超能力みたいなものなのか?」 「人間の能力の中にも、超能力と言いたくなるほど鋭い感覚を得る人がいますから、 そういう感覚を極限まで研ぎ澄ますことを活動の中心に据えていた種族と考えれば いいかもしれないですね」 「じゃ、機械や道具は使ってなかったの?」 「あまり大きな機械、例えばエンジンやモーターの付いた車や、飛行機械、宇宙船 などは無かったみたいです」 「ふうん。でも小惑星のなかに遺跡があったってことは、宇宙に出ていってたって ことでしょ」 「そこがわからない所なんですよ。彼ら自身は明らかに宇宙船はもっていませんで した。ただ、宇宙に彼らが出て行ったのは確かですから、宇宙船を持った他の種族 との交流があったのかもしれないと思っているんですが」 「他の種族?じゃ、そいつらが地球に文明を、ってことがあるかもしれんのか?」 「それも、ないでしょうね。遺跡の年代は今から少なくとも4千万年以上前のもの です。それより新しい物はないですから彼らがこの地で活動したのは人類誕生より も遥かに昔だった事になります」 「しかし、ここに来なかっただけで地球には来てたかもしれないぜ」 「それはそうなんですが、ここは彼らにとって相当に大切な場所だったみたいです から、ここに彼らが来なくなったのは、彼らがこの辺りからいなくなったと考える のが自然ですよ」 ………なるほど……… 俺はリックが入れてくれた紅茶をすすりながら、考えた。だが、まだ疑問がある。 「それじゃ、そいつらと俺達の生物学的な関わりはどうなんだ。例えば、そいつら が俺達の直接のご先祖様だとか?」 「それは明らかに違います。私はそちらの方は素人ですが、遺跡に残っていた生体 組織のDNAを見ても関わりはないですね」 「それを聞いて安心したよ」 「ねえ、リックさん。この船にも異星人の残した物が色々積んであるんでしょ。私 たちにも見せてもらえないですか?」 リリはようやく本来の目的を思い出したようだ。それを聞いたリックは破顔した。 「もちろんいいですよ。持って帰られては困りますがね」 「ありがとう!!気に入ったら持って帰るかもしれないから、しっかり見張っとい て下さいね」 「ははは、じゃ、しっかりくっついてご案内するとしますか」 リックに案内されて入ったのは、この前、物資を運びこんだ倉庫の隣の部屋だった。 どうやらすべての発掘品は保護カプセルに入れられているらしく、部屋の中に見え るのは整然と立てて並べられた円筒形のカプセルと、収集品を調べるためであろう 測定器のたぐいがいくつかあるだけだった。 「なんか不安定な置き方してんだな。ちゃんと固定してあるのか?」 「カプセルの底にマグネットと気圧差でもって吸着してますから、人の力くらいじ ゃびくともしませんよ」 「そうだよなあ、この船で大気圏に進入した時には相当揺れただろうからなあ」 近くのカプセルを揺らしてみる。たしかにびくともしない。 「ライ………」 「ん、どうした、リリ」 「胸が苦しい……」 「例のやつか?」 「うん……。ここにある何かが、わたしに関係してるような気がする………」 「まさか。ここにあるものはすべて4千万年以上前のものばかりですよ」 リリのことは、生い立ちから今度の妙な感じの事まで、リックには伝えていない。 まあ、リリ本人が判断して伝えるべき事だから俺からは何も言うまい。 「リックさん、ここにある物は全部何に使うか判ってるの?」 「幾つかを除いてほとんど判りました。ほとんどは生活必需品でしたから、彼らの 体型が分かった時点で多くの物が判断できましたね」 「じゃ、判らなかった物を見せて下さい」 リックは一瞬、リリの顔を見ていたが、ゆっくりと頷いた。 「いいでしょう。私も正直言って何に使うのかさっぱり判らないものですから、何 かのヒントでも得られれば助かりますから」 言い終えると、部屋の中央のまとめて幾つかのカプセルが置いてある所へと歩み寄 った。 「ただし、この中のほとんどは破損が激しくて判断がつきかねる物ばかりです。原 形を留めた物で、重要そうな物はこの3個くらいでしょう」 彼の示す3個のカプセルには他のカプセルには無い特徴があった。それは、3個と もびっしりとたくさんのメモ書きが貼り付けてあることで、手書きの文字での記録 というアナクロさが妙な違和感を持って俺の目に映ってきた。 「いろいろ書いてあるなあ。他のには無かったけど、なんでこれらだけにあるの?」 「この3個はまだ判ってないことばかりなんで、資料として整理してないんです。 整理前は他のカプセルも同じ状態でしたよ」 「なんで、手書きのメモなんだ?他にもっと便利な記録方法がありそうに思うけど なあ」 「もちろんいくつもの記録手段を使ってますよ。ただ、私は自分自身の印象や感じ たことを大事にしたいので、頭の整理も兼ねて手書きメモをよく使うんです」 言いながら、手早くカプセルを開けていった後、リックはリリに向き直った。 「私たちのまったく知らない異星の文明の産物です。何に使うかも判りません。私 はこれを何度も見てますが今まで危険な事は起こっていません。とはいえ、絶対安 全だとも私には言い切ることは出来ないですから、あなた自身の判断でこれを手に するかどうか、決めて下さい」 「リックさん。わたしは、小さな頃の記憶がないの。今から10年くらい前にライ 達に拾われて、ここまで育ててもらったけど………。わたしが何者なのか、誰にも 判らない。その意味では、わたしもこれと同じ………」 「リリさん……」 ……………… 俺は黙って聞いていた。 リリの心の中にわだかまっているもの、これを取り除く事が出来るなら、何でもや って見ればいい。危険なら、俺が守ってやればいい。 「わたし………感じるの………。ここにある物の中に、わたしと関係のある物があ る。わたしはそれを見つけて、わたしが何者なのかを知りたいの。たとえ………わ たしが……………………人で無かったとしても………」 「………リリ」 俺は、思わずリリの金髪の上に手を置いた。 「ライ………。いい?わたし……変な生き物かもしれないよ………」 「いいさ。お前が変な顔なのも昔からだしな」 「あ、言ったな〜。今度、ライの苦手なとっても辛い料理を食べさせてやるから」 にっこり笑って振り返ったリリは、迷うこと無くカプセルの一つに手を伸ばした。 「それは、遺跡の一番奥にあった物です。何か宗教的な儀式にでも使われたたもの のような気がするんですが……」 金髪の少女の小さな手に持たれた小さな物体は、真っ黒な球体で大きさは人の頭程 度だった。ただ、見かけは黒光りする石をなめらかに磨いた感じなのだが、リリが レダの重力の中で楽に持つことができた。けっこう軽いようだ。そして、幾つかの 小さな穴が空いている。 「なあ、リック、軽そうに見えるが中は中空なのか?」 「センサーでは調べることが出来ませんでした。穴もそんなに深くはないですね」 「あの穴、やっぱり指を入れるのかな?」 「そうですねえ。彼らの両手の指の数と、穴の数が一致してますから。可能性は高 いです」 リリに俺達の会話が聞こえているかは不明だった。 俺は思い切って声をかけた。 「なあ、リリ。その穴に指を入れてたらしいぜ」 「うん。知ってる」 あ………知ってるって言ったよな………そりゃ一体どういう………。 目を閉じて、何かに集中しているようなリリの姿に、なんとも言えない不安が沸き 上がってきた。 だが不安とは裏腹に何も言葉は出てこない。ただ黙って見守るしかなかった。 「………じゃ、指、入れてみるね………」 言いながら左の人差し指から一本づつ穴に収めていった。穴は全部で8個、ただ、 配置が広く指を全部収めるには親指から小指まで使い、薬指を余らせている。 「……………」 何も言わず左の指を収めたリリは、いったん様子を確かめるように動きを止めると、 今度は右手の指を差しこんだ。 両手の薬指を除いた8本の指をすべて収てから、ゆっくりと目を閉じる。 そのまま、動かない。 俺には、とてつもなく永い時間が経ったと思えた。だが、リリはまったく何の変化 も見せずに、目を閉じたままで佇んでいる。 と。 かすかに、音が聞こえた。 ………何の音だろうか?……… 小さな羽虫がたくさん集まって耳元で飛び回っているみたいだ。だが、じっと耳を 澄ますと羽虫達は、例の球体の中で飛び回っているような気がしてくる。 ブゥ〜〜………〜〜ン しだいにはっきりとしてきた。 ただ、見た目には何も変化は無い。球体は黒いままで、リリは穏やかな表情で目を 閉じている。 そして………リリの唇がかすかに動き始めた。 「×××××…………」 え、今何て言った? 「×××××××」 今度ははっきり分かった。 これは、俺の知ってる言葉じゃねえ。 地球人類の言語は、太陽系の諸惑星が統一政府となった時に標準言語が制定されて、 すべての人間が一つの言葉を教わるようになった。もっとも、人種や出身の地など の違いでそれぞれの言葉を大事にしている人達もいるから、俺が知らない言語があ っても不思議はない。 ただ、こんな妙なイントネーションの言葉は今まで聞いたことがないし、リリがし ゃべったこともない。 「リック」 俺が助けを求めると、若い考古学者は厳しい表情でその言葉に聞き入っていた。が、 こちらを向くと首を横に振った。 「私も聞いたことのない言葉です。この遺物を残した者たちの言語についてはまっ たく解っていないので、あるいはとも思いますが、確かめようがないです」 「そうか………」 「ただ、今起こっていることについては記録を残していますから、リリちゃんの言 葉が人類の使っている物なのか、データベースに後で当たってみましょう」 「………ああ」 「どうしました。ライさん。なんだか歯切れが悪いですね」 「そりゃそうだろう。もし、この言葉が人類の使っている物じゃなかったら、そし て、この言葉がこの黒い玉から与えられた物でなく、リリ自身の持っていた記憶な ら…………。この意味は解るだろ?」 「解りますよ。それを、ライさんもリリちゃんも恐れていたのでしょう?ただ、こ れだけは言えますよ。リリちゃんは自分が何者なのかを知りたいと思っていた。そ して、今その手がかりが与えられた、ということです。もちろんリリちゃんが、こ の遺物を残した異星人の末裔だとは考えれられないですから、単純に手がかりの一 つとして考えてもいいのではないですか?」 正直、俺はリックの言葉にすがりたくなった。また、そう考えることが最も合理的 な考えであることも解っていた。ただ、心のどこかが、それを否定していた。 「言葉が変わったようです」 リックの声に俺の心は現実の中に戻ってきた。 「言葉が?」 「ええ。いま、リリちゃんのつぶやいている言葉は、さっきまでのとは違う言語の ようですね」 そういわれてみると、リリが今しゃべっている言葉はさっきまでの妙なイントネー ションではない、ずっと滑らかで聞きやすい言語になっていた。 だが、やっぱり意味は解らない。 「×××××××………」 しばらく聞き入っていたのだが、リリの声が低くなり、言葉が途切れてから、俺は 我に返った。 ………終わった、のか?……… そのまま沈黙が続き………。 リリが目を開いた。 「リリ……」 リリと目が合う。 と、小さく微笑んだ。 俺にはその微笑みが、なぜかとても儚く見えた。 リリの唇が動く。 「ライ……。解ったよ、わたし」 「リリ。大丈夫か?」 リリは振り返って球体をカプセルに戻すと、俺の方へ一歩、踏み出した。 「ライ………疲れちゃった………ちょっと眠るね………」 そのまま俺の胸にもたれかかって………目を閉じた。 その目から、涙が一粒、零れて落ちた。 第三話 終わり ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ★ このコーナーに関するお問い合わせ このコーナーや掲載作品に関するお問い合わせは次のアドレスまでどうぞ。 お問い合わせ先はこちら electrofile@mlexp.com 感想等も同じアドレスで受け付けています。また、このコーナーへの投稿方法など については、この後の「お知らせ」にて。 ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ COSMO SCOPE ━……‥‥ コスモスコープ ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ ◆ 太陽系に似た惑星系発見 《2002/06/14》 カリフォルニア大学バークレー校と、カーネギー協会の研究チームが、太陽系によ く似た惑星系が発見されたと発表した。発見されたのは、かに座にある構成「55番 星(キャンクリ)」を中心とした惑星系で、太陽系から41光年と比較的近い位置に あるという。 今回、この惑星系に発見された惑星の一つが、中心の恒星からの距離5.5天文単位 (1天文単位は地球と太陽の間の距離、約8億2400万km)、公転周期が約13年と、太 陽系の木星によく似ていることがわかったという(木星は、太陽との距離5.2天文 単位、公転周期は11.86年)。また、その質量は、木星の3.5〜5倍程度と推定され ている。 これまで太陽系以外で惑星が発見されたのは80例ほどあるが、そのいずれも太陽系 の惑星とは大きく性質が異なっていた。公転軌道が大きく歪んだ楕円軌道であった り、中心の恒星(主星という)との距離が近すぎたりしていた。今回のような、太 陽系の惑星に極めてよく似た惑星が発見されたのは初めてである。 【 地球型惑星は存在するか? 】 今回の発見で、太陽系のような惑星系が存在するか、という疑問は、とりあえず決 着したといって良いだろう。存在したのである。さて、その惑星系に、地球のよう な惑星は存在するだろうか、という問題は、依然としてあるわけだが、その可能性 は、今回の発見で非常に高くなったといえる。 研究者らによると、この惑星系でさらに2つ惑星を発見しているという。1つは主星 から0.1天文単位の距離にあり、質量は木星の約90%、公転周期は14.6日。もう1つ は主星から0.25天文単位の距離にあり、質量は木星の約4分の1、公転周期は44.3日 だという。今、これらの惑星の間に、地球に似た惑星が存在する可能性があること が指摘されている。 地球型惑星が存在すれば、次は生命の存在する可能性が高くなり、さらに知的生命 の誕生の可能性も考えられる。少なくとも今回の発見は、太陽系のような惑星系が、 この太陽系にだけ実現したというわけではない、ということを決定付ける意味でも 大きいものだったといえるだろう。 ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ INFORMATION ━……‥‥ お知らせ ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ ◆ あなたもSETIやってみませんか? 地球外文明探査を自宅のパソコンで行おう、という世界規模のプロジェクトSETI@ homeに、当ムーンライトエクスプレスでもチームを作って参加しています。SETI@ homeは学術的にも意味のあるプロジェクトです。ぜひとも登録してみてください。 よろしければ当チームにも参加してみてください。  SETI@homeの参加方法についてはこちらから  http://www.mlexp.com/mm/seti.htm SETI@homeお問い合わせ先 seti@mlexp.com (mojio) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ◆ メーリングリスト参加者募集中! 当サイトでは、メーリングリスト(ML)を開設しています。MLとは電子メール を使用してインターネット上に擬似的な電子会議室を実現するものです。宇宙のこ とや科学、哲学全般について気軽に語り合ってみませんか? 参加方法など、詳細はこちら  http://www.mlexp.com/ml/index.htm ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ◆ 投稿作品募集 ムーンライトエクスプレス−エレクトロファイルに掲載する小説、エッセイなどの 作品を募集しています。テーマは、宇宙、科学、哲学などに付随する内容。密かに 暖めているネタ、書き溜めて眠っている小説などありませんか?そのような作品を、 是非ここで発表しましょう。4000人を超える読者にあなたの作品をお届けすること ができます! 投稿先アドレスはこちら sf-post@mlexp.com 詳細はこちら  http://www.mlexp.com/theater/efilepost.htm ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ COLUMN ━……‥‥ コラム ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥ 朝起きて歯を磨く。気がつくと磨き終わっている。無意識の行動、習慣てやつだ。 磨いている途中でふと気がつくとどこまで磨いたか分からなくなる。自分の体、自 分の行動なのに。 キメラという生物は異種の生物が融合した個体である。例えばひばりの脳とひよこ の体。この見た目ひよこの生物はひばりの鳴き声を出す、ひよこの体をひばりの脳 が支配しているのだ。しかし、体の免疫機能がひばりの脳を異物と捉え攻撃し、中 枢を失ったその個体は死んでしまうという。 最近はクローン技術も少し成熟し、クローン生物のその後の話も聞くようになった が、寿命が短かったり、異変があったりと自然界の生物の通りにはなかなかいかな いようだ。DNAだけが個体を決めるものではない、そんな方向にも研究が進んで いる。 自分とは何だろう。己の意思の届く範囲、自己の個体、環境も含めての自分。単純 に分かっているようで、自然の法則のなかで複雑に組みたてられたものはなかなか 分かるものではない。 (2002/ 6/13 mojio) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ◆ 編者ひとこと −W杯じゃないよ。永島選手、おめでとう(も) −FF11、ハマって寝不足。でもやめられない...(月) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 「ムーンライトエクスプレス−エレクトロファイル」に関する、ご意見、ご感想、 誤りのご指摘などは随時受け付けております。皆さんの声をお聞かせください。  宛先はこちら electrofile@mlexp.com ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 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