天地創造

では、ビッグバンの過程を徐々に見ていくことにしましょう。

宇宙開闢から10-10秒経った頃…。宇宙の温度は1015Kになっています。この時点では、まだ陽子や中性子などの素粒子はその形態でなく、クォークと呼ばれる、物質を構成する最も基本的な素粒子に分離した状態で存在していました。この他、軽い素粒子である電子や陽電子、ニュートリノや反ニュートリノなどなどのレプトン、また光子が、その空間を高速(高エネルギー)で飛び交っていたと考えられています。物質を構成する基本的な粒子は、この時点で見ることができます。最も単純な物質宇宙がそこにあったわけです。

宇宙開闢から10-8秒経った頃…。宇宙の温度は1014Kになっています。この温度になると、クォーク同士は“強い力”によって結合され、陽子や中性子などが形成されるようになります。この他、クォークと反クォークが結合して作られるとされている“メソン(中間子)”の一つ“パイメソン”も生成されます。メソンは、核力(原子核の陽子と陽子を結合させている力)の根源となっていると考えられています。この頃は、それまで存在していた光子、電子、陽電子に加えて、陽子、中性子、そしてパイメソンが、ほぼ同数で存在していました。ただ、この時点でもまだ高エネルギー状態ですので、光子の衝突によって、陽子、反陽子のペアが対発生、対消滅を繰り返していたと考えられています。

さらに温度が下がり1013K以下になると、陽子、反陽子、また中性子とその反粒子の対発生はなくなります。つまり、それ以降は既に生成されている粒子と反粒子の対消滅だけが起こり、光子だけがどんどん増えていくことになるのです。ただ、このとき粒子と反粒子が全く同数であったなら、今の宇宙は光子、つまり光しか存在しないことになってしまいます。このとき、何らかの理由で粒子の方が反粒子より多かった為に、今の宇宙は粒子主体の物質宇宙となっているのです。この時期、反粒子10億個に対して、反粒子は10億と1個という存在比だっただろうという予測がある。これは、現在の粒子と反粒子の存在比が1対109(10億)である、という予想に基づいています。

宇宙開闢から1/10000秒経った頃…。宇宙の温度は1012Kになっています。この頃の初期では、電子、ミューオン、ニュートリノなどのレプトン、及びその反粒子、そしてパイメソン、光子が同比率で存在していました。この為、この時期を“レプトン期”とも呼びます。この他、前の世代から引き続き、陽子や中性子も存在していましたが、対消滅によってそのほとんどが光子となり、レプトンなどに比べるとわずかであったと考えられています。この時期の陽子と中性子は、互いに変換が起こっていたといいます。つまり、陽子は中性子に、中性子は陽子に変換する、という現象が繰り返されていたため、この両者の存在比率はほぼ同等であったということです。

温度が1012K以下になってくると、比較的重いレプトンであるミューオン、そして反ミューオンが光子によって生成(対発生)することができなくなり、一方的に対消滅するようになります。これによって、ミューオンは数を減らし始めます。さらに1010Kまで冷えてくると、電子と陽電子の生成もなくなり、これも次第に数を減らします。対消滅によって生成される光子だけはどんどん増加することになります。

宇宙開闢から1秒経った頃…。宇宙の温度は1010Kになっています。この頃は、陽子と中性子の間でも数に差が出てきており、存在比率は、陽子75%、中性子25%となっています。これは、陽子の方が中性子よりもやや質量が小さい為です。なぜ、質量の小さい方の数が多くなるのでしょう。これは、質量とエネルギーの等価性から、質量が大きいほどエネルギーも大きいということになる為です。自然において、エネルギーはその大きい方から小さい方へ流れる、という原理があり、陽子と中性子で相互変換を繰り返す過程でこの自然の原理が働いて、エネルギーの大きい方から小さい方へ移行するという傾向が現れることになるのです。つまり、質量の大きい中性子から質量の小さい陽子への変換の方が起こりやすくなっている、と考えられるのです。

宇宙開闢から3分経った頃…。宇宙の温度は9億Kまでになっています。ここまで温度が下がると、陽子と中性子が結合し原子核を構成しはじめます。ここでは、水素やヘリウムといった、軽い元素の原子核が作られ、それに電子が捉えられて元素が構成されることになります。ただし、この温度だと、まだ光子のエネルギーも大きく、一旦原子核に捉えられた電子も、すぐに光子の衝突によってはじき飛ばされ、原子核と電子は、それぞれ単独で存在することになります。ここでヘリウム元素が合成されることは、ビッグバン宇宙論を支える一つの大きな柱となっています。現在の宇宙に存在するヘリウム元素の数は、恒星内部で生成されることだけを考えると、理論上足りないのです。しかし、ビッグバンの過程において、この頃(宇宙時間3分の頃)の現象を考慮すれば、現在の宇宙に存在するヘリウム元素の数を説明することができるのです。

さて、この後約30万年ほどは、特に大きな変化はなかったようです。軽い元素と光子、そして、若干の陽子や中性子、そして電子などがそのままほとんど変わらず存在していくことになります。