ビッグバンの始まる前

宇宙が進化していく過程で基準となる時間を“宇宙時間”といいます。ビッグバンのシナリオを見る前に、まずこの宇宙時間について簡単に説明しておきます。

相対論では、時間はそれぞれの慣性系ごとに固有のものとして解釈されます。ところが、宇宙全体を考える場合、その流れを測る時間はただ一つです。宇宙は、その観測者が宇宙のどこに存在していても、そこでは常に同じ法則が成り立ち(宇宙の一様性)、そこからどちらを見ても、見える現象は常に同じである(宇宙の等方性)という基本原理に乗っ取って考えることになります。

局所的な慣性系(相対時間を対応させる系)は、宇宙の流れ全体を考える際は便宜的に無視します。例えば、そこにある大きさを持った星や銀河、或いは宇宙船などがあったとしても、その内部で発生する相対時間は考えないで、大きさそのものも、一つの点(大きさゼロということ)として考えるのです。この点は、宇宙膨張に従って移動するのですが、点が自ら移動しているのではなく、時空の膨張にただ身を任せているということになります。即ち、点自身は静止しているので、結局、固有時間は考える必要はなく、宇宙全体として考える時間は、たった一つあれば十分ということになります。

宇宙誕生の瞬間、それは、宇宙時間ゼロの瞬間です。

このとき、宇宙の密度は無限大であった、とされています。密度が無限大となれば、時空の歪みも無限大ということになります。こうなったとき、重力の理論である相対論でさえ、その適用範囲外となってしまいます。この宇宙時間ゼロの点を、“ビッグバン特異点”と呼んでいます。特異点とは、物理法則が適用できないような点のことですので、実際は、この点からある程度時間が経過しないと、物理学で宇宙を解釈することができません。ただ、最近、この特異点を考えなくても良い理論を、イギリスのスティーブン・ホーキング博士らが考案しているので、注目したいところです。

では、私たちが従来の仮説で理論的に考えることのできる宇宙というのは、一体いつの頃からになるのでしょう?

それは、宇宙が始まってから10-43秒たった頃、とされています。この時間を“プランク時間”と呼びます。プランク時間だけ経過した頃の宇宙の大きさは、およそ1ミクロン(1/1000ミリ)程度でした。この大きさから、宇宙は極めて短時間で急激に膨張することになります。ビッグバンと呼ばれる時期は、この後、宇宙開闢から10-41秒後のことです。