力と物質と

現在の物理学では、物質を構成する最も基本的な要素が素粒子である、とされています。もうそれ以上分けることができない究極の粒子が素粒子、ということですが、実際、本当にそれが究極であるか、という議論はまだ尽くされていません。ここでは、現状の物理学の標準的な考え方に沿って見ていくことにします。

量子力学で扱われる素粒子は、大きく二種類に分けられます。一つは、物質の構成要素となっているクォーク、レプトン、いま一つは、それらの構成要素同士の間で力を媒介しているといわれているゲージ粒子です(場の量子論では、ゲージ粒子の他に力の原因となっている粒子としてヒッグス粒子というものが仮定されている)。例えば、電子やニュートリノなどは実際に物質の構成要素となっているので前者、光子やボソンなどは力の媒介役としての粒子、後者です。これらの素粒子が相互作用することで、私たちが目にするような現象や物体が成立している、ということになります。

ところで、現在物理学で考えられている力は、次にあげる四つがあります。それは、強い力、弱い力、電磁気力、重力です。標準理論では、これらの力はいずれもゲージ粒子と呼ばれる粒子によって媒介される、とされています。ではそれぞれの特徴を見てみましょう。

まず、強い力。これは、クォーク同士を結びつける力で、主に原子核の形成に重要な役割を果たしています。名前から分かるように、四つの力のうちで最も強いのですが、その及ぶ範囲は10-13センチ以内と極めて短いものです。この力を媒介するゲージ粒子はグルーオンと呼ばれています。

次に、弱い力。これは、主に中性子などの素粒子の崩壊に関わっているとされている力で、原子核の崩壊に大きく関わっています。力の強さは四つの内3番目ということになります。この力は、基本的に全ての物質対して働きますが、その及ぶ範囲がやはり短く、10-13センチです。この力を媒介する素粒子はウィークボゾン(W+ボゾン、W-ボゾン、Z0ボゾン)といわれています。

そして、電磁気力。これは、荷電粒子に対して働く力で、2番目に強い力です。この力は距離の二乗に反比例して小さくなっていきますが、その及ぶ範囲は無限遠です。この力を媒介するゲージ粒子は、お馴染みの光子です。

最後に、重力。おそらくこれが一番なじみ深い力ではないでしょうか。これは、説明するまでもなく、全ての物質に対して働く力で、その強さは万有引力の法則に従います。強さは、4つのうちで最も小さいことになりますが、その及ぶ範囲は、電磁気力と同様に無限遠です。この力を媒介しているゲージ粒子は、量子力学ではグラビドン(重力子)であるとされています。これについてはまだはっきり分かっておらず(グラビトンなどというゲージ粒子は、その存在が確認されていない)、実際、現時点で重力というのは、ゲージ粒子による力の媒介よりも、相対論的な解釈(時空の歪み)による説明の方が一般的です。

以上、これら四つの力によって全ての現象が支配されている、ということになります。

では、そのゲージ粒子は、どうやって空間を伝達することができるのでしょうか。そもそも、ゲージ粒子というのは“粒子”という名がついていますが、単なる粒ではありません。これは、やはり量子力学的な考え方、つまり“量子場”という観点で見た場合の粒子なので、単純にキャッチボールをしていると考えるのでは、やはり都合が悪いです。ここでいう“場”とは、要するに、ゲージ粒子が伝達する媒質のようなものです。そうはいっても、実際にそのような媒質が存在しているわけではありません。実際には何もないのだけど、そこに“場”という概念を考慮することでうまくその伝達を説明できるのです。

仮に、伝達するための媒質がある場合を考えてみます。例えば、水という媒質を波が伝播する様子を考えてみましょう。水面を波が進行する原理は、おそらく理解できると思います。これは、水そのものが移動しているわけではなく、水の振動(上下運動)が次々と前方へ伝達することで、その“波”がその方法へ進むのですね。注意したいのは、その方向へ媒質そのものは移動しない、ということです。水面のある一点は、どこかからやってきた振動を受けて上下に動く。上に動いたらそのままでなく、必ず元に戻ろうとする力が働く。だから、今度は下へ動く。この繰り返しが波をつくるのであり、この波が移動するのです。

媒質である水分子が上下に単振動することで、水面波の山と谷をつくっている。これは理解できるでしょう。ここで、その媒質を考えず、移動する“波”の方に注目してみます。つまり、媒質となっている水は考慮せず、実際に移動している波の“山の部分”を考えるのです。この“山の部分”を粒子とみなし、その振る舞いを考える。このような考え方は、連続した波という現象を粒子のように扱うことから“量子化”する、などといいます。そして量子力学では、この粒子(実際は波の性質をもつもの)を“波動関数”というもので表現します。量子力学でいう素粒子、とは、およそこのようなものだと考えれば良いです。

つまり、“水”のような媒質を仮想して粒子を考えるわけですね。そのような仮想的な媒質を“量子場”などと呼んでいるわけです。エーテルの蒸し返しではないか、とも思えますが、実際この量子場の理論は、エーテルを否定している相対論ともうまく折り合っています。現在、その“場”自体の正体はよくわかっていないのですが、これを仮想すれば、量子力学で現象をうまく説明できる、というわけです。