ミクロの世界へ

さて、この宇宙にはさまざまな物質や相互作用があります。少なくとも、全ての物質的存在は、そこにある法則によって支配されているに違いありません。ここからは、その物質の基本要素となる素粒子、また、それらがどのように作用しあっているかを見ていくことにします。

気の遠くなるくらい広大な宇宙。その宇宙と、ミクロの世界の素粒子とはまるで無縁のように思われるかもしれません。しかし、素粒子の世界を見ることと宇宙を見ることというのは、実に密接な関係にあるといえるのです。実際に1970年以降になると、素粒子物理の研究と宇宙物理の研究が共同で行われはじめています。

このような背景には、“ビッグバン”の概念の登場があります。現在宇宙は膨張している。ならば、かつては宇宙はただ一点に集約していた、と考えることができます。これは、宇宙は、かつて、素粒子やそれ以下のサイズの超ミクロ世界であった、ということになるわけです。そのような世界では、マクロを語る物理学より、ミクロ世界を語る素粒子物理学、主に量子力学によってよく説明されるのです。

宇宙は主に天体観測によって事実を知ることができますが、ミクロ世界の現象は、ある程度であれば実験室でも再現することができます。宇宙初期に於いて、宇宙は極めて高温高密度の高いエネルギー状態であったと考えられています。そのような状態では、現在物質を構成している分子や原子ですらその形をとどめていることはできません。原子は、電子と原子核に、原子核は陽子と中性子に、それらの陽子や中性子は、さらにそれを構成するクォークに分かれ、それぞれがてんでバラバラに存在していた、とされています。原子を分解して素粒子を単独で存在させるような実験は、素粒子を超高速に加速する加速器の中で行われます。

例えば、誕生からプランク時間(10-43秒)経過した頃の宇宙のエネルギーというのは、大体1019GeV(1eVは、1Vの電位差によって電子一つが得るエネルギー)にもなります。このような状態では、素粒子は陽子や中性子などという形態さえとることができません。それぞれが全く勝手に運動しているような状態です。つまり、加速器によってそのような状態をつくり出してやろうというのです。

加速器の原理というのは、大体次のようなものです。巨大なリング状のトンネル(中は真空)に、光速近くまで加速した粒子を2つ、お互いに反対方向へ発射する。すると、その粒子同士が正面衝突したとき、そのエネルギーによって新たな粒子を生成する。実際には、元になった粒子が分解されるということになります。現存する素粒子の加速器で最大に加速しても、およそ103GeV程度だといわれていますが、現在アメリカで建設中の加速器(LHC:大型ハドロン衝突型加速器)では、それ以上のエネルギーが見込まれており、宇宙誕生の10-12秒後の状態が再現できるとされていいます。このような加速器は初期宇宙を研究する重要なファクターであるといえます。