既成概念を超える

既成概念は、宇宙論を考えるにおいて重要な手助けとなりますが、真実を見抜く上で致命的な障害となることもあります。

例えば、地球って一体どんなもの?という問いに対して、あなたはどう答えるでしょうか。おそらく、今時、地球が青い球状の星で、それが太陽の周りをまわっているということ程度は、小学生でも答えられるところでしょう。ところで、あなたは実際に地球を地球の外から見たことがあるでしょうか?地球が太陽の周りを回っている様子を見たことがあるでしょうか?つまり、地球が丸い、或いは、地球が回っている、という事実を、あなたはどうやって得たのか、ということです。大抵の場合、これらの知識は、実際に地球の外へ出てそれを見た宇宙飛行士や関係者の発言をそのまま受け容れたことによるもの、となるのだと思います。もし、宇宙飛行士や宇宙論の権威が 「地球の大地は平らで、その大皿を亀や象が支えている」 と発言すれば、多くの人はそれを信じてしまうのではないでしょうか。

自然科学を考えるとき、既にそれを考える土台が出来上がっていて、その上で議論します。例えば、力に関する理論を考えるとき、そこにはある程度出来上がった“力学”という体系(土台)があり、それに基づいて考えられている。こうした土台のことを “パラダイム”と呼びます。宇宙論にはっきりとしたパラダイムはまだありません。ただ、それを考えるそれぞれの学問(物理学や数学)には、ある程度のパラダイムが出来上がっています。今人類は、そのパラダイムの上で宇宙を考えようとしています。これは、宇宙について秩序正しく理解する方法としては有効で、ある程度様々な事象が一つの法則で説明できるという点で合理性にも叶っています。しかし、この欠陥は、全体としての宇宙を考えるとき、ある条件で適合していた理論が、別の条件では矛盾してくるということでもあります。つまり、複数あるパラダイムがお互いに牽制し合って、全体を上手く説明できないことがあるのです。

完全な宇宙論を手に入れようと考えるなら、現状のパラダイムから一歩踏み越えることが必要となります。つまり、新たなパラダイムを創造しなければならない。物理学の歴史をみても、こうしたパラダイムの変革は起こっています。それまでの思想が天動説主流であったものが、コペルニクスやケプラー、そしてガリレイによって地動説へと変わり、自然現象を統一的に説明するニュートン力学が誕生し、そして、時間の流れは一定ではなく物体の運動は須く相対的である、としたアインシュタインの相対性理論、ミクロに於ける物体の不確定な振る舞いを説明する量子論の黎明、これらはいずれも、それ以前の既成概念を覆して一転させた革命です。

そして今、宇宙論は、新たなパラダイムを必要としています。それを見つけるには、常識や経験に捕らわれない、全く新たな発想が必要となるでしょう。それを考えるには、例えば、地球は本当に丸いのか、本当に太陽の周りを回っているのか、といった常識的な考え方から疑ってみることも、重要な思考過程であるといえます。以降において、いわゆる既成概念も多々紹介していくことになりますが、それでもそれが常に正しいと思わず、なぜそうなのか、どうしてそうなるのかということを考えた上で、理解を進めていきたいと思います。