宇宙の黎明

宇宙の初期において、実際に何が起こっていたのか、それを見た者などいるはずがありません。それは、専ら理論物理学の世界の話であり、これから見ていく様子も、今ある理論物理学と観測事実に基づくものです。

そもそも、宇宙という存在の根源は“エネルギー”でした。現在、このエネルギーは二種類の形態をとっています。一つは“放射エネルギー”、もう一つは“物質エネルギー”です。物質エネルギーというのは、質量とエネルギーの等価性を表す式 E=mc2 (mは質量、cは光の速さ)から導かれる、物質として存在しているものが持っているエネルギーのことです。そして、放射エネルギーというのは、いわゆる光(光子)のエネルギーのことで、これは絶対温度に比例します。宇宙が始まったばかりの頃は、エネルギーのほとんどは放射エネルギーだったと考えられていいます。これは、体積が小さくなるほど放射エネルギーが優勢となるためです。宇宙が誕生した瞬間は、3×10-34センチという極微のものだったと考えられているので、ここに物質が存在できる余地はほぼなかったのでしょう。

宇宙が始まったばかりの高温、高密度状態では、すべてが放射エネルギー、つまり、光子によって満たされていた、と考えられています。こうした高エネルギー状態においては、光子同士の衝突が盛んに起こっており、そこでは粒子の対生成(粒子と反粒子がペアで発生すること)も頻繁に起こっていました。そして、生成された粒子と反粒子は互いに反応して消滅し、再び光子に帰す。このようにして、宇宙の初期で、現在の物質を構成する基礎となる様々な粒子が発生、消滅を繰り返していたのです。

対生成した粒子が実在粒子となるためには、その光子が持つエネルギーが、発生させる粒子の質量(厳密には静止質量)と光の速さの二乗との積以上となる必要があります(E≧m0c2)。ただ、この条件を満たしたとしても、結局そこに存在する粒子と反粒子の数が同数であったら、いつかそれらは対消滅し、宇宙には光しか残らないことになります。では、なぜ宇宙に粒子だけが残ったのでしょうか?

粒子と反粒子は、必ずペアで生成します。その為、粒子だけが残る要因となった余分な粒子の発生過程は、この対発生によるものではないと考えられています。また、超高エネルギー状態では、粒子が反粒子に、また反粒子が粒子に変換されるという現象が起こることも、理論的に考えられています。もしかしたら、この過程で、何らかの要因が働いて、反粒子から粒子へ変換される過程の方が優位になっていたのではないか、という仮説もあります。しかし、実際のところ、なぜ粒子が反粒子よりも多くなったか、ということについてははっきりと解っていません。